日本で「ベーシックインカム」導入は果たして可能なのか?

1: 2019/06/28(金) 19:07:16.45 _USER
全5回にわたって、ベーシックインカムをめぐる世界での動向を俯瞰してきた。日本ではどのような可能性があるだろうか。

フィンランド政府が実験の対象とした失業手当受給者は日本にはいない。フィンランドでは、大きく分けて3種類の失業手当があり、それぞれ直訳すると「稼得所得比例失業手当」「基本失業手当」「労働市場補助金」となる。

第一のものは、労働組合などを通じて加入していた人が期間を限って受け取れるもの。事前の加入を必要とせず税を財源としているのは第二と第三のものだ。

第二のものは通常400日を上限としており、その期限を超えてなお失業している人は第三のものを申請できる。こちらは受給期間に制限はないが、資力調査を受け、所得や資産が一定以下であることを証明する必要がある。実験の対象者となったのは第二と第三の制度の受給者だ。

日本の雇用保険給付金は、失業前に雇用保険に加入している必要があり、この意味でフィンランドの第一の制度に近い。第二、第三のタイプのものがないため、失業者に占める失業手当受給者の割合はとても低い(図2)。

図2のデータは10年以上前のもの。厚労省はこのデータも使いながら雇用保険の適用範囲を拡大する努力をしてきているので若干は改善している可能性はあるが、国際的にみて低い水準であることは変わりないだろう。

日本では第二、第三のタイプの失業手当がないため、他の福祉となると生活保護となるが、これも生活保護基準以下の収入で生活している人のうち実際に保護を受給している人の割合は2割を切っているともいわれている。

また、受給者の半数強を高齢者が占めており、残りの半分も障害や病気を持っている人で、健康な労働者の失業時の所得保障としての機能はそれほど果たしていない。

その結果、ワーキングプアと呼ばれる、働きながらも国の貧困基準以下で暮らしている人が1千万人を超える規模でいるとみられる。

税を財源とするベーシックインカムの提案で、それほどの増税をしなくてもベーシックインカムの導入は可能だという議論がたまにある。

フィンランドのように貧困基準以下で生活している人への福祉制度がある程度整っている国では、既存の制度の合理化で、実質増税は避けながら(税額はあがってもその分ベーシックインカムで戻って来る形で)導入することも可能かもしれない。

しかし日本ではその可能性はない。

第3回で、税制を大きく変える提案や、貨幣・金融制度を大きく変えることでベーシックインカムを導入する提案について紹介した。ただこれらは長期的な展望となる。

短期・中期的にはどのような展望があるだろうか。

第一に、既存の制度をよりベーシックインカム的なものに近づけていくことである。例えば基礎年金を現行の社会保険による仕組みから税財源とする。児童手当を現行の世帯主への支給から、主に育児を行っている者への支給に変更し、所得制限を撤廃し、かつ増額していく。

第二に、いくつかの国で導入されている、部分的なベーシックインカム的制度を導入する。アメリカやイギリスなどで導入されている給付付き税額控除の導入が考えられてもよいだろう。

第三に、他の政策目標にベーシックインカム的発想を持ち込むこともできる。例えば過疎対策で、過疎地域の居住者に部分ベーシックインカムを給付することなどが考えられてもよいだろう。

ベーシックインカムは、ある人にとっては「私たちが当然にもっているはずの権利」だし、ある人にとってはその人にとっての「当たり前」を真っ向から否定する「荒唐無稽な提案」だ。

何をかくそう、筆者がベーシックインカムについて初めて触れたのはもう30年近く前だが、はげしく反発したのを覚えている。

私たちの社会には多くの「当たり前」がある。多くの人が共有している「当たり前」から、いまや永田町のなかにしかないかもしれない「当たり前」まで。

いわく「少子高齢化は子どもを産まない女性のせい」「過労死は自己責任」「子連れで通勤電車に乗らないで」「風邪くらいで会社休むな」「家事育児は女性の責任」「お金を稼ぐのは男性の責任」「経済成長がぜったい必要」などなど。

ベーシックインカムについて考えることは、これらの「当たり前」をいったん括弧にいれることでもある。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65163?page=4


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Source: 投資チャンネル
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